
認知症高齢者のひとり歩き対策におけるGPS選びのポイント
認知症の高齢者が増加する中で、「ひとり歩き」は多くの家族にとって大きな悩みのひとつです。
「ちょっと目を離したすきに外へ出てしまった」「どこへ行ったのかわからず、探し回った」という経験をされた方もいるのではないでしょうか。
ひとり歩き自体は認知症の症状のひとつですが、そのまま放置すると交通事故や転倒、行方不明といった重大なリスクにつながる可能性があります。
さらに、万が一の事故によって第三者に損害を与えた場合、家族が損害賠償責任を問われるケースもあるため、事前の備えが重要です。
本コラムでは、実際の事例をもとに、ひとり歩きによる事故リスクとその対策についてご紹介します。
認知症高齢者のひとり歩きは、本人にとっては目的のある行動ですが、思わぬ事故につながることがあります。
特に、発見が遅れるほど事故のリスクが高まるため、どのような危険があるのかを知り、対策を考えることが大切です。
ひとり歩き中に起こる事故には、さまざまなケースがあります。
ここでは、代表的な事例とその発生割合を見ていきます。
警察庁の統計によると、2022年には1万8,709人の認知症高齢者が行方不明になったと報告されています。
これは10年前(2012年)の約1.8倍に増えており、年々増加傾向にあります。
・発見まで24時間以上かかったケースは約30%
・1週間以上かかったケースは約5%
・死亡して発見された割合は約1.4%(約250人)
発見が遅れると、事故や体力低下による衰弱のリスクが高まることがわかります。
交通安全に関する研究報告によると、認知症高齢者のひとり歩きによる事故は以下のような割合で発生しています。
事故の種類 | 発生割合 | 主なリスク |
---|---|---|
交通事故 | 約40% | 信号無視や道路横断時の接触事故、高速道路や線路への進入 |
転倒・転落事故 | 約35% | 段差や階段での転倒、川や用水路への転落 |
熱中症・低体温症 | 約10~15% | 夏の屋外ひとり歩きによる熱中症、冬の低体温症 |
行方不明による衰弱死 | 約5~10% | 発見が遅れたことによる脱水症や衰弱 |
特に交通事故のリスクは高く、ひとり歩き中の事故全体の約4割を占めています。
ひとり歩き後、発見が遅れるほど事故のリスクが高まり、命に関わる事態になることがわかっています。
研究データによると、発見までの時間が6時間を超えると、転倒や衰弱、事故に巻き込まれるリスクが急増し、12時間以上経過すると命に関わる可能性が高まるとされています。
発見までの時間 | 生存率 |
---|---|
6時間以内 | 99% |
12時間以内 | 90% |
24時間以内 | 70%以下 |
また、前の項目でも触れたように気温の影響も大きく、夏場は3時間以上、冬場は6時間以上屋外にいると、熱中症や低体温症のリスクが著しく高まることが指摘されています。
データからもわかるように、6時間以内の早期発見が鍵となるため、GPSの活用や地域の協力体制を整えておくことが非常に重要です。
これまで、日本では認知症高齢者のひとり歩きによる事故をめぐり、損害賠償をめぐる訴訟がいくつか発生しています。
ここでは、代表的な事例を紹介します。
【事案の概要】
2007年、愛知県で91歳の認知症男性が線路内に立ち入り、列車にはねられて死亡。
JR東海は、家族に損害賠償を請求しました。
【裁判の争点】
家族に監督義務があるのか?
事故を未然に防ぐ対策が十分だったのか?
【最高裁判決】
家族に法的な監督義務なしと判断→賠償責任なし
認知症の介護負担の大きさを考慮し、家族に過度な責任を負わせない判断が示されました。
【事案の概要】
85歳の認知症高齢者が深夜にひとり歩きし、車道に進入してタクシーにはねられ死亡。
タクシー運転手が家族に対して損害賠償を請求しました。
【裁判の結果】
家族に過失なしと判断 → 賠償責任なし
認知症高齢者の行動予測の難しさが考慮されました。
【事案の概要】
80代の認知症高齢者が夜間に踏切内に立ち入り、列車にはねられて死亡。
鉄道会社が家族に損害賠償を請求しました。
【裁判の結果】
家族に過失なしと判断→賠償責任なし
事故の予見可能性が低いことがポイントとなりました。
認知症高齢者のひとり歩きによる事故やトラブルは、予期せぬタイミングで発生することが多いため、事前の備えが不可欠です。
近年、司法の判断では家族が賠償責任を負うケースが限定的になりつつありますが、それでも家族の精神的・経済的な負担は大きく、リスクを最小限に抑えるための対策が求められています。
事故を未然に防ぐための具体的な方法と、万が一の際に役立つ保険制度について詳しく解説します。
認知症高齢者のひとり歩きを完全に防ぐことは難しいですが、適切な対策を講じることで事故のリスクを大幅に低減できます。
以下のような複数の対策を組み合わせることで、安全性を高めることが可能です。
ひとり歩きが発生した際、迅速に高齢者の居場所を把握することができれば、大きな事故を未然に防ぐことができます。
これまでのコラムでも何度かご紹介してきましたが、GPS機能を活用した見守りサービスの導入が非常に有効です。
GPS端末の利用
・GPS機能付きの端末を認知症高齢者の衣服や靴に取り付けることで、リアルタイムで位置情報を把握できる。
・家族は専用アプリやWebサイトを通じて、認知症高齢者の現在地を確認し、必要に応じて速やかに対応できる。
・一部のGPS端末には「移動範囲を設定する機能」があり、特定の範囲を超えた場合にアラートを発するものもある。
自治体の見守りネットワークへの登録
・多くの自治体では、地域住民と協力して認知症高齢者の安全を見守る「見守りネットワーク」を構築している。
・認知症高齢者がひとり歩きした際、登録情報を基に捜索活動を迅速に開始できる。
・交番、スーパー、商店など地域の施設とも連携しており、行方不明時の早期発見につながる。
自宅から外へ出ることを未然に防ぐために、住環境を工夫することも重要です。
ドアや窓へのセンサー設置
・玄関や窓に人感センサーを取り付けることで、認知症高齢者が外に出ようとした際に家族に通知が届く。
・スマートフォンと連携できるシステムもあり、離れた場所からでも状況を把握可能。
鍵の工夫
・普通の鍵ではなく、特殊なロックや暗証番号式の鍵を導入することで、認知症高齢者が無意識に外出することを防ぐ。
・チェーンロックを高い位置に設置することで、認知症高齢者が気付かずに外出するのを抑止できる。
認知症高齢者の安全を守るには、家族だけでなく地域の協力が欠かせません。
地域住民や商店などと連携し、認知症高齢者がひとり歩きした際に速やかに対応できる体制を整えておくことが重要です。
近隣住民や商店への協力依頼
・普段から近所の人に認知症高齢者の顔を覚えてもらい、異変があれば連絡をもらえるようにしておく。
・商店や駅など、外出先になりやすい場所のスタッフに声をかけ、ひとり歩き時に保護してもらう体制を作る。
認知症サポーター制度の活用
・地域での認知症サポーター講習会に参加し、周囲の人々と連携して見守り活動を行う。
・認知症サポーターがいる地域では、ひとり歩き者の保護や家族への連絡が迅速に行われる可能性が高まる。
認知症高齢者がひとり歩き中に事故を起こした場合、家族に損害賠償責任が生じる可能性があります。
そのため、万が一の事態に備えて適切な保険に加入しておくことが望ましいでしょう。
認知症高齢者のひとり歩きは、どの家庭でも起こりうる問題です。
事故を防ぐためには、日頃の対策と、万が一の際の備えの両方が大切です。
特に、2016年のJR東海認知症事故に関する最高裁判決をきっかけに、自治体や保険会社が認知症高齢者の事故対応に関する制度を整える動きが進みました。
各自治体では認知症高齢者向け賠償責任保険が導入され、家族の経済的負担を軽減する仕組みが整いつつあります。
また、民間の保険会社でも、認知症特約付きの保険が増え、介護施設や個人での備えが進んでいます。
こうした流れを受けて、ホームネットでも自治体と連携しGPSを活用した位置検索サービスには「日常生活賠償保険」を付帯しています。
これは、ひとり歩き中の事故による賠償リスクをカバーするもので、家族の負担を軽減する大きな安心材料になります。
万が一に備える選択肢のひとつとして、こうしたサービスもあることを知っていただければと思います。
ホームネットのGPS事業について興味のある方、どこの自治体で使えるのか知りたい方は、こちらからご相談ください。
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