
ひとり歩き認知症高齢者の安全な外出を支えるGPS端末~持たせるためには
超高齢社会を迎えた日本では、認知症高齢者の増加が深刻な社会問題となっています。
認知症の周辺症状の一つである徘徊。
徘徊は交通事故や行方不明などのリスクがあるため非常に危険ですが、ご本人にとっては理由も目的もあるため、基本的にそれを止めることは困難です。
ここでは認知症によって起こりうる徘徊の原因や対処方法について解説します。
認知症の人が徘徊行動を起こしてしまうのは、認知機能の低下による記憶障害や見当識障害(時間・場所・人物の認識の混乱)、心理的な不安、生理的な欲求、過去の習慣 など、さまざまな要因が複雑に絡み合っているためです。
主な理由を詳しく説明します。
道順や目印を忘れる記憶障害や、自分のいる場所がわからなくなる見当識障害があると、慣れているはずの場所でも道に迷うことがあり、そのまま迷い続けてしまう可能性があります。
また、屋内でも、トイレに行くなどの目的があるのに場所がわからず、迷い続けることもあります。
環境の変化や知らない人に囲まれると、不安や恐怖を感じることがあります。
また、家族や知人の顔が認識できず、見知らぬ人がいると思い不安になったり、置かれている環境やそこでの介護に不満があったりすると、感情が抑制できず衝動的に外出につながることがあります。
そのため、「安心できる場所を探そう」として外に出るケースがあります。
定年退職した会社に出社しようとしたり、幼い子どもがいる認識となり子どもを迎えに行こうとするなど、記憶障害で現状を忘れ、過去に習慣として行っていた外出をしようとすることがあります。
心理的に孤独感を感じやすく、家族や知人に会いたいという気持ちから歩き回ることがあります。
前頭葉や側頭葉が萎縮して起こる前頭側頭型認知症では、同じ行動を繰り返す常同行動という症状が見られる場合があります。
その症状で、同じところを目的なく行き来する場合もあり、結果として「徘徊」とされる場合もあります。
また、レビー小体型認知症では幻視が生じ、不安な幻視から逃れようとする行動が「徘徊」とされることもあります。
徘徊は、転倒による外傷や骨折、交通事故などのリスクがあります。
また、夏場は熱中症、冬は低体温症を引き起こす可能性もあり、地域によっては用水路などへの転落といった事故事例もあります。
ただし、それぞれに理由のある「外出」である「徘徊」を止めることは、実際は非常に困難です。
ご本人が開けられないカギを付けて閉じ込めたり、靴を隠すなど外出をさせないようにすると、怒りや暴言・暴力につながることもあり、いざとなれば裸足でも外出します。
窓や2階から出ようとして大けがをする場合もあります。
逆説的ですが、閉じ込めるのではなく、楽しい気分や体調で積極的に外出していただくことが重要です。
それもリスクのあるひとり歩きではなく、見守りのある安全な外出に変えることが最良の対策です。
「外出させない」のではなく、徘徊のリスク・危険性をより低くするためにできることを考えてみましょう。
何もすることがなく、話し相手もいなければ、「自分の居場所ではない」「ここはどこだ」と疑いはじめ、外に出ようとしがちになります。
集中できる手作業や、充実感のある作業、楽しめる趣味があることが、「ここが居場所だ」という感覚につながります。
誰しも、同じところにじっとしているのはつらいものです。
エネルギーがあり余って「徘徊」とされる行動につながることがあります。
適度に運動してエネルギーを発散し、心地よい充実感や疲労感を味わうことで外出衝動が改善する場合があります。
特に、散歩など外出する機会を増やせば、足腰も鍛えられ、交通法規を守り、正しい道を記憶し続けるトレーニングにもなります。
逆に体調が優れず、夜眠れないなど生活リズムが乱れているために、徘徊とされる行動につながることもあります。
水分不足で意識がもうろうとしていたり、便秘や腰痛で不快感があったり、夜目覚めてしまうと、ご本人がどうしていいかわからず、徘徊につながることがあります。
こういった場合は、体調や生活リズムを整え落ち着いてもらう必要があります。
無理に止めようとせず、一緒に出かけてみましょう。
徘徊する理由も、歩いているうちに忘れることも多いのです。
外出したことによって気分も晴れ、徘徊の原因となったストレスも緩和されていきます。
表情が和らいだ頃を見計らい、「きれいだね」と一緒に季節の花を見たり、喫茶店に寄ってみたり、楽しい「外出モード」に切り替えましょう。
また、一緒に外に出ると、ご本人が迷いやすい曲がり角や、立ち寄りやすいところ、休みたい、トイレに行きたいタイミングなどの傾向や、経路での危険もわかります。
徘徊の症状が出ていても、安全に通える外出先があれば、どんどん外に出てもらうほうがよいでしょう。
安全に外に出る機会を増やすことで地理感覚を保ち道迷いのリスクを軽減したり、外出する能力そのものを維持したりすることができます。
デイサービスや地域のいこいの場など、ご本人の状態を理解し支援してくれる外出先を見つけ、安全に外に出る機会を多く作りましょう。
徘徊が生じても、大きな事故にならないように以下のような対策をしておくことも大切です。
玄関にセンサーを付けたり、ドアベルを付けたりすることで、周りの人がご本人の外出に気づくことができます。
また、玄関に鏡や花など、ご本人の興味を引くものを用意することで、外出行動に気が付く時間を稼ぐ仕掛けになります。
万一行方がわからなくなっても、早期に発見できるよう予め準備しておくことで、外出のリスクが低減できます。
ご本人の行動パターンや立ち寄り場所を知っておくと、発見しやすくなります。
記憶障害により自分で言えない状況を想定し、名前や連絡先をキーホルダーや財布など常に持ち歩くもの、衣服に目立たぬように記入するなど、複数身につけてもらいましょう。
位置情報を知らせてくれるGPS端末を利用するのも有効です。
首から下げたり、ポケットに入れたり、靴につけたり収納するタイプがあります。
携帯電話のGPS機能を使用するのも良いでしょう。
ただし、どの方法を用いるためにもご本人の理解やプライバシーの尊重が大切です。
家族の安心だけでなく、ご本人にとって安全のためのものと丁寧に説明を行うことが重要です。
また、探索しやすいよう、顔写真を準備したり、当日の服装を記録しておくと有効です。
徘徊対策には地域との協力が欠かせません。
ご近所・地域とは日ごろのお付き合いが大切です。
立ち寄る可能性のある店舗や、駅などの交通機関を事前に知っておくと、いざというときに協力をお願いすることもできます。
行方不明者を発見保護するSOSネットワークなどがある自治体もあります。
外出傾向がある場合は、地域包括支援センターに相談し、事前に登録しておくとよいでしょう。
サービスを利用している事業所やケアマネジャーに、前もって相談しておくといいでしょう。
担当ケアマネジャーやデイサービス、ヘルパー事業所など、介護事業者同士で声をかけあい、捜索に協力してくれることもあります。
実際にご本人が行方不明になると、認知症に対する家族の「恥」の意識が、捜索の足かせになることがあります。
家族がご近所に「認知症の人がいる」と知られたくないために、捜索を自力だけで行い、結果、手遅れになってしまうケースもあります。
しかし、家族が思っているより、認知症の方の行方不明はありふれていて、地域との連携が当たり前、おたがいさまの時代になっているのです。
たくさんの人の協力を心おきなく仰ぎましょう。
いなくなったことに気づいたら、焦らず、落ち着いて対応しましょう。
並行して、自力での捜索だけに頼らず、まずは迅速に警察に連絡しましょう。
戸惑うかもしれませんが、通報時間が早ければ早いほど捜索範囲も狭まり、発見する確率はずっと高くなります。
急に驚かせないように接することが重要です。
自分が迷子になっている自覚がないことが多いため、無理に連れ戻そうとすると拒否されることがあります。
なぜ外出したのかなど聞き、気持ちを尊重しながら、自然な形で誘導するのがコツです。
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